お客様の「助かったー」を聞くために:コンパチビリー
「生産中止のICでお困りのお客様は、まだまだ大勢いらっしゃるはず!」
コンパチビリーは、一人の女性スタッフの提案から始まった事業。
「お客様の困りごと」「ニーズの掘り下げ」…。お客様のためになることを考えてくれたコンパチビリー提案です。
ICの製造中止が招く悲劇
『コンパチビリー』というのは、“互換性がある”というニュアンスの「コンパチ」に「ビリー」を足した名前。ICのピン位置・サイズは同じで基板側の変更はいらないという、技術者の間で言う『ピンコンパチ』という商品です。
さて、このコンパチビリー事業。
ICなどが製造中止になってしまい代替品もなく困っているお客様に対し、“既存の部品を組み合わせて、元のICと同じ機能を有する小さな基板を製作する”というもの。
元のICが挿入されていた箇所に、新しく設計・製作した小さい基板を取り付け、製造中止品のために諦めるしかなかった機器などを復活・延命させてみせましょう、というビジネスです。
ICメーカーが製品の製造中止を発表する時、以前は“メーカーの供給責任”ということで後継製品を用意していましたが、最近では需要が少ない製品や利益率の悪い製品などはさっさと製造中止を決め、後継製品を用意する代わりに“生産中止までに1年間の移行期間を用意する”という手法をとることが主流となってきました。
そこでお客様は自社の需要予測に従って、製造中止予定のICを先買い・買い溜めして在庫対応することになるのですが、ICというものは2年くらいで酸化と吸湿により品質的に保証されなくなるというのが実情。つまり需要予測が3年以上あって数量も少量の時には、在庫手配が出来なくなってしまうのです。
そのICが採用されている基板自体を新しい設計で開発し直し、同じ機能を有する新しい基板に置き換えるという方法もありますが、基板全部のリニューアルとなると、開発・製造・評価試験など多くの時間と費用が掛かり、特に需要予測が少量の製品の場合などは全くコストが合いません。
一方、製造中止部品だけの交換で済むならば、リニューアル費用の1/10でできる場合が多々あります。
「コンパチビリー」が選ばれる最大の理由はここにあります。
目からウロコの延命要請・とあるメーカー様からの打診
『コンパチビリー』Webサイトをオープンしたのは2010年のこと。
ITやWebサイトビジネスの研修会によく参加していた現社長が、ライオンパワーでも何かWebサイトビジネスにトライしてみようと、社内のとあるプロジェクトメンバーに相談。プリント基板のアートワーク設計をしていた女性から、この『コンパチビリー』ビジネスが提案されました。
実は既に、とある既存顧客との間でこのようなビジネスが行われていたこともあり、「他の企業も同じような悩みがあるはずだからやってみては?」との提案してきたのです。
ホームページビジネスは出店費用が比較的安く、たとえ失敗しても影響は少ないということもあり、気楽にスタートしました。
お客様からの受けも良く、開始早々から順調にビジネスをのばしていきました。
ここに一つ面白いエピソードがあります。
とあるメーカー様から「自社の製品に、ICの生産中止により制御基板全部を作り直さなければならないものが出てきてしまった」との連絡をいただきました。その機器は“終息気味の製品で新たな開発費を投じる余裕もない”とのこと。
そこで弊社の『コンパチビリー』Webサイトに打診されてきたのです。
お客様が実際に使用している機器の復活や延命を想定していた弊社としては、メーカー様自体が“出荷する機器・商品の延命に利用される”というシチュエーションは目からウロコ状態でした。
ライオンパワーだからできたビジネス
終息製品で使用されることを想定した『コンパチビリー』。そういった意味で、多品種小ロットは『コンパチビリー』の宿命です。
この多品種小ロットの製造は、当社の得意とするところ。基板製造においてはハンダ検定資格者が手ハンダしたり、小型ハンダ槽を活用して生産を行っています。
つまり『コンパチビリー』は、ライオンパワーの強みである、回路設計・基板設計(アートワーク)・基板実装・評価試験など全てを社内でできるという特徴を生かした、“弊社ならではのビジネス”だったのです。
Webサイト開設当初は、既存顧客へのパンフレット配布と営業担当者による売込みが中心。既存顧客から仕事を受けることがほとんどでしたが、展示会でのPR効果に加え、メーカーの生産中止が次々と発表された『リーマンショック』が追い風となり、受注も増加。
近年では景気の回復もあり、新製品投入による製品入れ替えによる需要も出てきています。
お客様も、医療機器関係、分析装置関係、テレビ局関係など、多種多様。その地域も全く営業したことのない地域も含め日本全国からとなっており、まさにネットならではのビジネス展開となりました。
ゴールはシステムとして動作すること
このビジネスで一番難しいのは、ICの機能をそのまま再現しても駄目なところ。
製造中止のICが含まれるプリント基板全体の設計思想を理解する必要があり、時にはそのプリント基板が搭載される製品をも理解しなければなりません。
これらは一見すると意味がないこと、あっても僅かな違いに思えるかもしれません。しかし特にFPGAの置き換えの時などは、信号の立ち上がりタイミングや立下りタイミングでのやり取りなどが直接影響してきます。
また、製造中止ICが搭載されている基板につながっている、他の基板とのやり取りも重要。過去には、相手方基板で抵抗によるプルアップがされていたため信号が反転、上手くつながらないという事例もありました。
他の基板とどの様につながっているか。抵抗、コンデンサなどの周辺回路の仕様は…。
『コンパチビリー』には、製造中止ICの単なる代替ではなく、最終的にシステムとして完璧に動作するかどうかが求められているという難しさがあります。
最近では可能な限り全体の回路図を頂いたりしていますが、回路図を頂けないときにはヒアリングなどによるリスク回避に努めています。
すべては、製造中止品で困っていたお客様からの「助かったー」の言葉を聞くために。
ライオンパワーは、お客様の設備機器の最後の砦を強固に守っていきます。